【コラム】パリ・テキサスという映画。ロードムービーの魅力

なぜか男は、本能的にロードムービーに惹かれる人が多い。理由はわからない。

そんでイメージはやっぱりアメリカ。

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車の窓を開け、気持ちよく吹き付ける風に髪がなびいていく。

そして荒々しい荒野の黄色と突き抜けるような青空のコントラストがまぶしく、日が落ちれば真っ赤な夕焼けと緑の蛍光灯やネオンサインが顔を出す。これがロードムービーと聞いてぼくが真っ先に思い浮かべる光景。

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ショーンペンの監督した『イントゥ・ザ・ワイルド』もそのひとつ(これを観て旅に出かけた男子は多いと思う)。この映画ではサントラを担当したEddie Vedderの曲がとても印象的だったけれど、『パリ・テキサス』でのRy Cooderの音色も頭から離れない。冒頭から流れるのはDark was the nightという曲をライ・クーダーが編曲したもので、彼は撮影した映像を大スクリーンで観ながらギターを即興で弾き、繰り返してまとめていったのだそう。

ロードムービーはBGMを流して聴いているような感覚があって、従来の映画より日常に寄り添って観れるような気がするところがとても好き。その感覚があるから、数ヶ月に1回は観返そうと思ってしまう。

『パリ・テキサス』はパルムドールも獲ったほど、大衆向けにも成功した映画であるけれども、美しい映画だった。監督のヴィム・ヴェンダースと撮影監督ロビー・ミュラーは長きを共にした相棒だったがそのヴィムがロビーの最高傑作だったが振り返るほど。

小さなモーテルや車内など、スペースを限られた中で照明とカメラを配置して、見事にナチュラルなビジュアルをつくったりと光を完璧にコントロールしていた。これを40年前にやっていたのが驚き。さすが、光の魔術師と呼ばれているだけはある。

たとえばこの映画でも、屋外ではPLフィルターを使ったことによって青空がとても綺麗にハッキリと映っていたり(太陽に対して45度で撮ると綺麗に写るのだそう)、当時新しかったバイフォーカルレンズ(2つの焦点を持つレンズ)を使用しての描写など、工夫が存分にこなされていたらしい。

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バイフォーカルレンズを使ったシーン

バイフォーカルレンズを使ったシーン

そしてこの映画の経緯については、原作はサム・シェパード。もともとこの映画の4年前の『ハメット』という映画でヴィムは友人のサムに脚本と主演を依頼しようとしていたものの、破談になってしまった。

それでも一緒に映画をつくろうと念願かなってサムの原作をもとに2人で脚本をかきはじめたのだそう。しかし、結局サムは他の仕事で忙しくなってしまい、脚本は半分までしか書いてない状態で撮影がはじまった。残りの脚本は俳優の演技をみながら書き足すことにしたんだという。しかし、もともとライターではないヴィムは苦悩してしまい、こちらも監督仲間のキットカーソンが脚本を手伝った(キットの息子のハンターはハンター役で出演)。その後サムとも一緒に残りの脚本を書き上げ、なんとか撮影した。

当初は主演のトラヴィスの役もサムがやる予定だったが、脇役として活躍していたハリー・ディーン・スタントンを起用。

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この映画でヴィムヴェンダースのこだわりが見えたのは演者がいかにリアルを演じやすくするかということだったと思う。

ひとつはクロノロジカル(物語の時間順)で撮られていること。通常、スケジュール確保や予算の関係で物語の時間軸がバラバラで撮影することがほとんどだけど、役者が混乱してしまうこともある。それにくらべて、この方法ならば俳優には役作りがとてもやりやすくなる。

ふたつめはprops(撮影小道具)に関して。こちらもコストはかさむが、できるだけ本物を使っている。たとえば、ラストのジェーンとトラビスがマジックミラー越しに電話機で会話するシーンは、窓ガラスと電話機に話しているふりもできたけど、実際にマジックミラーを用意して、電話も通したのだそう。それによって役者の素直を演技を引き出すことにこだわっていた。

さらに、カメラは常に1台でラストのダイアログもワンテイクで5分以上撮っていたという。5アングルほどから撮っているが、一言でも失敗したら撮り直し。フィルムを使いすぎてプロダクションマネージャーに怒られたらしい(笑)

ナスターシャからは実際にハリー・ディーン・スタントンが見えないものとなっている

ナスターシャからは実際にハリー・ディーン・スタントンが見えないものとなっている

またスタイルとして、ロビーの撮影するカラー映画では、蛍光灯の緑色をフィルターをかけずそのまま写すことが多かった。だから、フィルムらしいとても幻想的な色合いが特徴的になる。

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この映画でもその色が多用されているが、ヴィムは後にその意味を暗示していて、色になんらかの意味を込めていたのではないかと思う。衣装においてもハンターとトラヴィスが揃って赤を着ていたり、ラストのジェーンとハンターは緑をまとっているシーンがあった。

赤を着るハンターとトラヴィス

赤を着るハンターとトラヴィス

緑をまとうジェーンとハンター

緑をまとうジェーンとハンター

個人的に印象的だったのは、

この映画の中では4年間失踪していたトラヴィスが弟に「4年も息子をほったらかした」ことを指摘されて

is 4 years a long time?

と問いかけ、それに対して

half a boy’s life….

と答える弟のシーン。

この、ぼやくようなひとことでトラヴィスの無責任さと無邪気さ、そして子どもと大人における時間の意味の違いなど色々と考えさせられる一言だったように思う。

ロードムービーでは、ぼやっと真理のようなことを言っていて、

観ている側が自分の人生について考えさせられるこのゆるいメッセージがある。それもまた、自分を省みたいときにロードムービーを観たくなる理由。

ということで、このタイミングで『パリ・テキサス』について書こうと思ったのは自分の中で、ロードムービーの魅力を言語化していきたいと思っていたから。

この映画に大きく関わった2人、サム・シェパードとハリー・ディーン・スタントンが一昨年、そして撮影監督のロビー・ミュラーが昨年に亡くなってしまった。とても残念だけど、彼らの作品はこれからも観続けるし、これからもたくさんのことを教わるだろう。

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やっぱり、人生に一度はロードムービーが撮りたいなあ。